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高松地方裁判所 平成8年(ワ)278号 判決

呼称

本訴原告・反訴被告(以下「原告」という。)

氏名又は名称

木村幹雄

住所又は居所

香川県高松市古馬場町一番地一

代理人弁護士

熊川照義

呼称

本訴被告・反訴原告(以下「被告」という。)

氏名又は名称

有限会社豊島商店

住所又は居所

香川県高松市飯田町二二九番地

代理人弁護士

木村一三

主文

一  被告は、高松市内で営む料理・飲食業の商号ないし営業表示に「おりづる」の文字を用いてはならない。

二  原告のその余の本訴請求を棄却する。

三  被告が高松市飯田町二二九番地で営む結婚式場・料理・仕出し・飲食・鮮魚販売業に「新折鶴」の営業表示を使用することについて、原告が不正競争防止法二条一項一号及び二号、三条一項に基づく差止請求権を有しないことを確認する。

四  訴訟費用は、本訴・反訴を通じてこれを二分し、その一を原告の負担、その余を被告の負担とする。

事実及び理由

第一  当事者の請求

一  原告の本訴請求

被告は、高松市内で営む料理・飲食業の商号ないし営業表示に「おりづる」「折鶴」「新折鶴」「オリヅル」及び「ORIZURU」の文字を用いてはならない。

二  被告の反訴請求

主文三項と同旨

第二  事案の概要

本件は、「割烹おりづる亭」の商号で日本料理ないし日本風料理業を営んでいる原告が、「折鶴」「新折鶴」「オリヅル」並びに「ORIZURU」の文字を用いた商号ないし営業表示による結婚式場・料理・仕出し・飲食・鮮魚販売業及び「みちのく料理・寿司おりづる」の商号ないし営業表示による日本料理・寿司業を営んでいる被告に対し、不正競争防止法(平成五年法律四七号。以下同じ。)二条一項一号及び二号、三条一項の規定に基づき、「おりづる」等の文字の使用停止を求め(本訴)、被告が、原告に対し、被告の使用している「新折鶴」の営業表示につき原告が右規定に基づく差止請求権を有しないことの確認を求めた(反訴)事案である。

一  前提事実

1  原告の営業とその商号の周知性

原告は、昭和五一年七月二日から、高松市古馬場町一番地一に店舗を設置し(以下「原告の店舗」という。)、「割烹おりづる亭」の商号(以下「原告の商号」という。)を用いて日本料理ないし日本風料理業を営んでいる。原告の商号は、長年にわたる広告・宣伝、口コミ等により、同市内において、需要者の間に広く認識され、周知となっているものである。なお、原告は、平成五年一〇月一日、原告の商号につき登記を経由している(原告の商号の使用開始時の点は甲一九、甲三六の1及び2、原告本人の供述及び弁論の全趣旨によって認められ、その余は争いがない。)。

2  被告の営業とその営業表示

被告は、昭和三七年二月五日に設立された高松市飯田町二二九番地に本店を置く会社であって、「折鶴」「新折鶴」「オリヅル」及び「ORIZURU」の文字を用いた商号ないし営業表示(以下「被告の旧来営業表示」という。)により結婚式場・料理・仕出し・飲食・鮮魚販売業を営んでいるものであるところ、更に、平成五年一〇月ころから、同市古馬場町七番地七に店舗を設置し(以下「被告の古馬場店」という。)、「みちのく料理・寿司おりづる」の商号ないし営業表示(以下「被告の新営業表示」という。)で日本料理・寿司業を営んでいる。被告の古馬場店と原告の店舗は、前者が通称中古馬場筋、後者が通称北古馬場筋に位置していて、通りは一筋違ってはいるものの、ともに古馬場町のいわゆる飲食・歓楽街にあって、両者間の距離は約五〇メートルにすぎず、近接している(争いがない。)。

3  原告の権利主張

原告は、被告の使用する「新折鶴」の表示についても差止請求権があると主張している。

二  争点

1  原告の商号の著名性

(1) 原告の主張

原告の商号は著名ともなっている。

(二) 被告の認否反論

不正競争防止法二条一項二号所定の著名にあたるというためには、同項一号にいう需要者の間に広く認識されているものよりも一層周知性がなければならず、具体的には本来の需要者層・営業地域を超えた全国的な周知性があることを必要とするところ、原告の商号がそれほどの周知に至っていないことは明白である。

2  営業表示の類似と営業主体の誤認混同

(一) 原告の主張

(1) 被告の新営業表示は、原告の商号と同じ「おりづる」の文字を用いている点において、原告の商号と類似していることが明らかであり、被告の旧来営業表示も、漢字、平仮名、ローマ字によってはいるが、「おりづる」と読むものであるから、やはり原告の商号と類似しているというべきである。

(2) 被告の古馬場店が開店された以後、被告の新営業表示が使用されていることにより、原告の店舗における営業との誤認混同を生じさせている。この誤認混同の状況は、次のとおりである。

▲1▼ 原告の店舗を利用したことのある顧客は、原告の店舗が被告の古馬場店へ移転したか、支店を出したものと勘違いし、新しい客は、原告の店舗を被告の古馬場店と間違えることが続いている。

▲2▼ 原告の店舗に予約した客が被告の古馬場店に行き、被告の古馬場店に行くべき客が原告の店舗に来るということが度々あり、また、タクシーの運転手において原告の店舗が被告の古馬場店へ移転したかのように誤認しているため、タクシーに乗って原告の店舗へ来る客が、被告の古馬場店の前で降ろされ、そこから原告の店舗まで歩かざるを得ないということも頻繁にある。

▲3▼ 五十音別電話帳では、原告は「おりづる亭(割烹)」と載せており、被告は「おりづる(日本料理)」と載せている。また、職業別電話帳では、原告は、終始、「割烹・料亭」欄に載せているが、被告は、平成七年まで「すし店」欄に載せていたのに、平成八年から原告と同じ「割烹・料亭」欄に載せ替えた。そのため、原告が、電話で予約注文を受けてこれを承諾し、その後にあった予約注文を断って部屋を確保していたのに、予約客は原告の店舗に来ず、後で聞くと、被告の古馬場店に行ったというような、電話による予約注文の混乱が頻繁に起こっている。

▲4▼ 郵便物の誤配も少なくなく、原告の店舗に配達されるべき小包が被告の古馬場店に配達され、そこで開封された後、転送された例もあり、また、被告の古馬場店に対する請求書が原告の店舗に誤配され、原告がこれに従い銀行振込をし、後で取り戻したこともある。

(3) 原告の亡妻早苗の叔父松崎正照は、昭和二六年五月一日有限会社折鶴を設立した。同会社は、設立以来、本店を高松市百間町四番地の一〇に置き、料理旅館業を営んでいる。右早苗の母松崎初子は、右会社の承諾の下に、同市福岡町二丁目一一番一九号において、「折鶴荘」の商号で旅館業を営んでおり、原告も、右会社の承諾を得て、原告の商号を使用するようになったものである。このような経緯があるから、被告の旧来営業表示が使用されていることによっても、原告の店舗における営業との誤認混同を生じさせている。

(4) 被告が、被告の新営業表示及び旧来営業表示を使用し、原告の営業との誤認混同を生じさせている行為(不正競争行為)は、今後も継続・反復されるおそれがある。

(二) 被告の認否反論

電話帳に原告主張の記載があること、郵便物の誤配が一、二回あったことは認め、その余は争う。被告は、原告主張のような電話帳の載せ替えを電話局に依頼したことはなく、「割烹・料亭」欄に被告の電話番号が載せられたのは、電話局の裁量によるものであると推認される。

3  営業上の利益の侵害

(一) 原告の主張

(1) 原告は、前記のとおり営業主体の誤認混同が生じていることにより、少なからぬ営業上の損害を被っており、売上げをみると、平成五年には前年比約二〇パーセント、平成六年には同一五パーセント、平成七年には同一〇パーセントの各減少となっている。もっとも、平成五年については、いわゆるバブル崩壊後の不況による交際費節減の影響もあるとみられるから、右減少のすべてが右誤認混同によって生じた損害とはいえないかも知れないが、その何割かは誤認混同による損害ということができ、このままでは、今後も誤認混同により原告の営業上の利益が害され続けると思われ、少なくとも、そのおそれがあることは明らかである。

(2) また、原告は、妻と死別して独身生活をしているが、被告の古馬場店は被告代表者の妻が中心となって営業しているらしく、「奥さんおいでますか」「奥さんに言っておいたのですが」などという間違い電話を受けることが少なくなく、これにより耐えがたい苦痛を受けている。

(3) なお、被告は、最近、被告の古馬場店を、原告の店舗とは目と鼻の先ともいうべき約四〇メートル東の古馬場町一番地一〇(原告の店舗と同じ北古馬場筋)に移転すべく、用地を取得し、被告の新営業表示を使用した日本料理店を開店しようとしているが、そうなれば、原告の営業上の利益に対する侵害が増大することは明白である。

(二) 被告の認否反論

被告が原告主張の土地を取得したことは認め、その余は争う。被告が右土地を取得したのは、被告の店舗を移転するためではなく、新店舗を増設するためであって、新店舗の商号ないし営業表示は「魚好人」とする予定である。

4  先使用権

(一) 被告の主張

被告代表者の父豊島豊秋は、遅くとも昭和二九年から「折鶴」の営業表示を使用して料理業を営んでいたものであり、同人らによって昭和三七年二月五日被告が設立されてからは、被告がその本店における営業につき右表示を続用していた。そして、被告は、料理旅館業を営む有限会社折鶴からクレームをつけられたことを契機として、遅くとも昭和四九年三月二三日以前に営業表示を「新折鶴」と変更し(同会社と被告は業種を異にしているが、被告は争いを好まなかったので変更した。)、その使用を続けてきた(もっとも、被告の顧客は、従前の営業表示に親しんでいたため、この変更後も被告を「折鶴」と呼んでいた。)。また、被告代表者らは、昭和四八年八月一一日、株式会社ディナーオリヅルを設立して、その本店である高松市郷東町一番地一〇で「レストラン オリヅル」の営業表示により飲食店を開店し、約二〇年間にわたって、右表示を使用した。なお、被告は、その本店における営業表示として、「オリヅル」及び「ORIZURU」の文字も使用していた。

このような経緯で、被告は、原告の商号が使用される前から被告の旧来営業表示を使用していたところ、株式会社ディナーオリヅルの飲食店の廃業に伴って被告の古馬場店を開業するにあたり、被告代表者が右会社の商号に愛着を感じていたこともあって、その営業表示に「おりづる」の文字を用いることとし、不正な利益を得る目的や原告に損害を加える目的などなく、「みちのく料理・寿司おりづる」としておけば問題はないと考えて、被告の新営業表示を使用するようになったものである。

したがって、被告の旧来営業表示及び新営業表示が原告の商号と類似するものであるとしても、被告は、右各表示につき原告に対して先使用権を有し、これを不正の目的でなく使用しているものであるから、その使用については、不正競争防止法一一条一項三号及び四号により、同法三条一項の適用が除外されるというべきである。

(二) 原告の認否反論

被告がその本店における営業について「折鶴」「新折鶴」「オリヅル」及び「ORIZURU」の営業表示(被告の旧来営業表示)を使用していることは認め、その余は争う。前記のとおり、有限会社折鶴が昭和二六年から「折鶴」の営業表示を使用しているから、同表示は原告側が被告より先に使用している。

5  権利の濫用

(一) 被告の主張

原告主張の誤認混同は、原告が、前記のとおり被告においてその営業表示に「折鶴」「新折鶴」等の文字を用いていることを知っており、したがって、これにつき被告が先使用権を有することを知っていながら、そのことを無視して原告の商号を使用したことによるものであり、原告において受忍すべきものであるから、原告の本訴請求は、権利を濫用するものであって、許されるべきではない。

(二) 原告の認否反論

被告の主張は先使用権を前提とするものであるが、前記のとおり、「折鶴」「新折鶴」等の表示は原告側が被告より先に使用している。

6  被告使用の「新折鶴」の営業表示に対する差止請求権の不存在

(一) 被告の主張

(1) 不正競争防止法二条一項一号、三条一項に基づくもの

被告がその本店で営む結婚式場・料理・仕出し・飲食・鮮魚販売業につき「新折鶴」の営業表示(以下「新折鶴の表示」という。)を使用していることは、原告の店舗における営業との誤認混同を生じさせるものではないから、その使用は不正競争防止法二条一項一号の不正競争行為に該当しない。また、被告は、前記のとおり、新折鶴の表示につき原告に対して先使用権を有し、これを不正の目的でなく使用しているものであるから、その使用については、同法一一条一項三号により、同法三条一項の適用が除外される。したがって、原告は、被告に対し、同法二条一項一号、三条一項により新折鶴の表示の使用停止を求めることはできない。

(2) 不正競争防止法二条一項二号、三条一項に基づくもの

前記のとおり、不正競争防止法二条一項二号所定の著名にあたるというためには、全国的な周知性があることを必要とするところ、原告の商号がそれほどの周知に至っていないことは明白である。また、同号に該当する不正競争行為であっても、平成六年五月一日の同法施行前に始まったものについては、同法三条一項の適用はない(同法附則三条一号)ところ、被告の新折鶴の表示の使用は遅くとも昭和四九年三月二三日以前に始まっている。更に、被告は、前記のとおり、新折鶴の表示につき原告に対して先使用権を有し、これを不正の目的でなく使用しているものであるから、その使用については、仮に原告の商号が著名といえるとしても、同法一一条一項四号により、同法三条一項の適用が除外される。したがって、原告は、被告に対し、同法二条一項二号、三条一項により新折鶴の表示の使用停止を求めることはできない。

(二) 原告の認否

被告が新折鶴の表示を使用していることは認め、その余は争う。

三  証拠関係

本件記録中の書証目録・証人等目録に記載のとおりであるから、これを引用する。

第三  争点に対する判断

一  争点1(原告の商号の著名性)について

原告の商号が著名であると認めるに足りる証拠はない。すなわち、不正競争防止法二条一項二号は著名な商品等表示と同一又は類似のものの使用を不正競争行為としているが、同号が同項一号と異なり営業主体の誤認混同を要件とせず被冒用者と全く無関係な業種の分野にまで及ぶものであることに照らすと、右の著名というためには、通常の経済活動において、相当の注意を払うことにより当該商品等表示の使用を避けることができる程度にその表示が知られていることが必要であり、具体的には全国的に知られているようなものでなければならないと解されるところ、本件全証拠を検討しても、原告の商号がそれほどに著名であるとは到底認められない。したがって、原告は、被告に対し、同法二条一項二号、三条一項の規定を根拠として被告の旧来営業表示及び新営業表示の使用停止を求めることはできないというほかない。

二  争点2(営業表示の類似と営業主体の誤認混同)について

1  原告の商号と被告の新営業表示にはいずれも「おりづる」の文字が用いられていること、原告の店舗には、「割烹おりづる亭」と記載した看板が掲示されており、被告の古馬場店の看板及びのれんには、大文字で「おりづる」と記載され、これに付記する形態で小文字により「みちのく料理寿司」と記載されていて、「おりづる」が強調されていること(甲三の1及び2、一二の1及び2)、したがって、原告の商号と被告の新営業表示はいずれも「おりづる」の部分を要部とするものであると認められること、これらの事情からして、需要者は、原告の店舗と被告の古馬場店をいずれも「おりづる亭」ないしは「おりづる」と呼ぶのが通常であって、被告の古馬場店を「みちのく料理・寿司おりづる」などとは呼ばないと考えられること、前記のとおり両店は近接していることなどに照らすと、原告の商号と被告の新営業表示は、両者の外観、呼称、あるいは観念に基づく印象等からして、全体的に類似のものとして受け取られるおそれがあるというべきであるから、類似しているものと認めるのが相当である(なお、原告の商号と被告の旧来営業表示が類似するか否かの判断は留保する。)。

2  甲一三ないし一七の各1及び2、一八の1ないし3、一九ないし二二、原告本人の供述並びに弁論の全趣旨によれば、ほぼ前記第二の二2(一)(2)のとおり、被告の古馬場店が開店された以後、被告の新営業表示が使用されることによって、原告の店舗における営業との誤認混同を生じさせていることが認められ、この誤認混同は今後も継続・反復されるおそれがあることが推認できる。

3  しかし、被告の旧来営業表示は、被告の本店における営業に用いられているものであって、それが仮に原告の商号と類似しているとしても、そのために原告の店舗における営業との誤認混同を生じさせていると認めるに足りる証拠はない(なお、被告において、今後、被告の古馬場店における営業につき被告の旧来営業表示を用いるおそれがあるとは認め難い。)。したがって、被告の旧来営業表示の使用は、原告との関係では、原告の商号との類似性の有無にかかわらず、不正競争防止法二条一項一号の不正競争行為に該当しないというべきである。

三  争点3(営業上の利益の侵害)について

甲一九、原告本人の供述及び弁論の全趣旨によれば、原告は、前記のとおり営業主体の誤認混同が生じていることにより、原告の店舗における営業につき、減収となり、信用を損ない、精神的苦痛を被るなどして、営業上の利益を侵害されており、それが今後も続くおそれがあることが認められる。

四  争点4(先使用権)について

不正競争防止法一一条一項三号は、他人の商品等表示が周知性を獲得する前からそれと類似する商品等表示を使用していた者がこれを不正の目的でなく使用(旧来表示の善意使用)している場合には、既得権保護の見地から、先使用権を認め、同法三条を適用しないこととしている。

これを本件についてみるに、甲一九、二四、三六の1及び2、原・被告各本人の供述並びに弁論の全趣旨によれば、原告は、有限会社折鶴から「折鶴」及びこれに類する営業表示の使用を許諾されて、原告の商号を使用するようになったものであること、右会社と被告との間には、かねてより、被告が「折鶴」等の営業表示を使用していることをめぐって紛争があり、右会社は、被告に対し、「折鶴」等の営業表示を使用しないよう要求していたこと、被告は、原告が原告の店舗で原告の商号により営業しており、それが長期間に及んでいることを知っていたのに、「みちのく料理・寿司」と付記すれば差し支えないであろうなどとして、原告の店舗と近接する場所に店舗を設置し、被告がそれまでに用いたことのなかった「おりづる」の文字を用いて、被告の新営業表示を使用するに至ったことが認められるのであって、これらの事実を総合して考えると、被告は、被告の新営業表示を使用すれば、原告の商号と同じ「おりづる」の文字が用いられていることから、原告の店舗における営業との誤認混同を生じさせ、原告の営業上の利益を侵害するおそれがあることを予測できたというべきである。

したがって、仮に被告がその主張のように被告の新営業表示について先使用権を有するとしても、これを被告の古馬場店で使用することが、不正の目的のないもの(旧来表示の善意使用)であったとは断定し難いから、その使用につき不正競争防止法一一条一項三号によって同法三条の適用が除外されるとはいえない。

五  争点5(権利の濫用)について

原告が、被告の営業表示に「折鶴」「新折鶴」等の文字が用いられていたのを知っていたことは、証拠に照らして明らかである。しかし、原告が被告においてその主張のような先使用権を有することを知っていたと認めるに足りる証拠はなく、かえって、原告本人の供述及び弁論の全趣旨によれば、原告は、被告がその営業表示に「折鶴」「新折鶴」等の文字を用いることは有限会社折鶴ないし原告の商号を侵害するものであると考えており、被告がその主張のような先使用権を有するなどとは思ってもいなかったことが認められる。したがって、前記誤認混同を原告において受忍すべきものであるとはいえないから、原告の本訴請求が権利の濫用であるとは認め難い。

六  争点6(被告使用の「新折鶴」の営業表示に対する差止請求権の不存在)について

1  不正競争防止法二条一項一号、三条一項に基づくもの

既に判断したとおり、被告が新折鶴の表示を使用していることは、原告の店舗における営業との誤認混同を生じさせるものではないから、その使用は、不正競争防止法二条一項一号の不正競争行為に該当しない。したがって、原告は、被告に対し、同法二条一項一号、三条一項により新折鶴の表示の使用停止を求めることはできないというべきである。

2  不正競争防止法二条一項二号、三条一項に基づくもの

既に判断したとおり、原告の商号は著名とはいえない。また、不正競争防止法二条一項二号に該当する不正競争行為であっても、平成六年五月一日の同法施行前に始まったものについては、同法三条一項の適用はない(同法附則三条一号)ところ、被告の新折鶴の表示の使用は遅くとも昭和四九年三月二三日以前に始まっていることが、証拠に照らして明らかである。したがって、原告は、被告に対し、同法二条一項二号、三条一項により新折鶴の表示の使用停止を求めることはできないというべきである。

第四  結論

以上によれば、原告の本訴請求は、不正競争防止法二条一項一号に基づいて被告の営業表示に「おりづる」の文字を用いることの停止を求める限度で理由があるが、その余は失当であり、被告の反訴請求は理由がある。

よって、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条を適用して、主文のとおり判決する。なお、原告は仮執行の宣言を求めているが、相当でないからこれを付さないこととする。

(裁判官 山脇正道)

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